猫の去勢・避妊手術の必要性

去勢手術とはオス猫から精巣を摘出する手術で、避妊手術とはメス猫から卵巣子宮を摘出する手術のことです。

将来、愛猫に子どもを産ませる予定のない場合、多くの猫がこの手術を受けることになります。
昔に比べると、これらの手術はだいぶ受け入れられてきていますが、なかには、まだ小さな健康な体に麻酔をかけメスを入れることに抵抗のある方もいらっしゃいます。
生まれたままの自然な状態で一生を終えるのが1番幸せでしょ?と思う人もいると思います。

避妊・去勢手術が必要と考える理由として、猫はとても妊娠しやすい動物です。
犬や人間と排卵パターンが異なり、高い確率で妊娠します。オーナーが大丈夫と思っていても、たった1度きり、ほんの数分だけ家の外に行ってしまった場合、その数カ月後におなかが大きくなってきた、なんてことがありえるのです。
そして猫は1度に2~6匹の子どもを産みます。そうするとやはりその子猫全員を一緒に飼う、ということは難しく、不幸な命が生まれてきてしまうのです。
それを防ぐためにも、子供をとる予定のない猫には手術を受けさせるのが一般的です。
また、手術をすることで一部の病気の発生率を下げることができると報告されています。
 
反対に、避妊・去勢手術をすることで発生率が上がってしまう病気があることも報告されています。
ですから、わたしたち獣医師は、手術を選択しないオーナーさんの意思も尊重するべきであると考えています。
しっかりオーナーと獣医師が話し合い、みなさんが納得できる形へ助言ができれば、と考えています。

猫に去勢・避妊手術を受けさせる時期

個体差はありますが、オス猫はおよそ生後4~6カ月、メス猫はおよそ6カ月で性成熟を迎えます(生殖器がおとなになり、繁殖が可能になる、という意味です)。
多くの動物病院では、そのタイミングで避妊・去勢手術を実施します。初回発情の前に避妊・去勢手術を受けることで、将来の乳腺腫瘍発生率が大幅に下がるという報告があります。
また、なかには生後4~5カ月から発情やマーキングなどの発情行動が始まってしまい、早くに手術を受けたいというオーナーもいらっしゃいます。
体の発達がしっかりしていれば、早期に手術を受けることも可能です。かかりつけ医に相談してみましょう。

体の発達が未熟な状態で麻酔をかけることはやはりリスクが大きくなります。しかし、現代の医療ではしっかり事前検査を行い、モニターしながら手術をコントロールします。
そういった背景があるので、欧米では生後2~3カ月で手術をしてしまう流れが主流になってきています。

猫の去勢・避妊手術の流れ

いざ、手術を受けるとなった場合の流れを簡単に説明します。
まず、多くの病院で前日の夜から絶食の指示があります。手術当日胃内に残留物があると、麻酔をかけたときにそれらが逆流し、誤嚥性肺炎を起こす可能性があるからです。

当日病院に連れてきたら、最初に血液検査、レントゲン検査を行います。
特に異常がなければ、静脈点滴で体液と同じ成分の水分を入れます。鎮痛剤、抗生剤も同時に投与します。
麻酔導入薬で麻酔に入りやすい状態にし、落ち着いていたら、そのまま麻酔をかけます。手術中はガス麻酔です。

オス猫では陰嚢を切開します。
傷口は1cm程度で、多くの病院で縫合はしない術式をとっていますので、抜糸もありません。
麻酔開始から覚醒までの時間は30分~1時間程度ですが、実際の手術時間は10分程度です。

メス猫ではおへそと股の間を切開します。
傷口は2~4cm程度で、縫合があるため、抜糸が必要です。
最近では内視鏡による避妊手術も増えてきていて、この場合、傷口はもっと小さくなります。かかりつけ医がどの術式をとっているか事前に確認しておきましょう。
麻酔時間は1~1時間半、実際の手術時間は30分程度です。病院によって、入院があるか、その日に退院になるかは異なります。事前にしっかり確認しましょう。
メス猫の場合は10~14日後の抜糸が必要になるので、それまでは縫合糸を切ってしまわないよう、エリザベスカラーをつけます。

猫の去勢・避妊手術のメリット・デメリット

先ほども少しお話ししましたが、避妊・去勢手術にはそれぞれメリット・デメリットがあります。

<メリット>
・妊娠を防げる
・乳腺腫瘍の発生率が低くなる(2回目の発情までに手術をすると発生率が低いことが証明されています)。
・発情によって引き起こされる体調不良や精神的ストレスを軽減できる。
・性ホルモンが関与している攻撃性を軽減できる場合がある(必ずしも性格や攻撃性を落ち着かせることができるわけではありません;)
・マーキング行動が減る。

<デメリット>
・麻酔をかけるので100%安全とはいえない。
・手術による貧血、感染のリスクがある。
・太りやすくなる(避妊手術をするとホルモンの影響で食欲が増える、基礎代謝が下がるなどの報告があります)。
・骨肉腫、血管肉腫、甲状腺機能低下症の発生リスクが上がる(アメリカの論文で報告されています)。
・オス猫では泌尿器系疾患の罹患率が上がる。

猫の去勢・避妊手術後に注意すべきこと

手術が終わり、おうちに帰ってきたら、できるだけ愛猫にストレスのかからない環境を作ってあげましょう。
ぐったりしている、嘔吐を繰り返すなどの症状が見られた場合は、すぐに獣医師に連絡します。

術後は傷口をチェックしましょう。極端に腫れたり、赤くなったり、膿んだりした場合は獣医師に相談してください。
先述したエリザベスカラーがどうしてもストレスになってしまう猫ちゃんは、代わりに洋服を着せるなどの工夫が必要です。
エリザベスカラーが邪魔でごはんをうまく食べられない子には、お皿を台の上に置くなど、少し高くしてあげるとスムーズに食べられるようになります。
 
避妊・去勢手術後、多くのオーナーさんが直面する問題が「肥満」です。
手術後は代謝や生活リズムが変わってしまい、今までと同じ食事をとっていても体重が増えてしまう傾向にあります。
人間同様、肥満は多くの疾患につながります。
現代では摂取カロリーを抑えた避妊・去勢済の猫用キャットフードも多く出ています。心配な方はそういったフードを活用したり、ゆで野菜などでかさ増しをしたり、工夫をしてみてください。

まとめ

避妊・去勢手術の意味、メリット・デメリットをあげてみました。
これらの知識をふまえて、愛猫にとってどのような選択肢が一番合っているのかを考えてみてください。決めることができるのは家族であるオーナーさんだけです。獣医師はそのお手伝いをさせていただく存在でありたいと考えています。

今後も猫ちゃんとの生活が笑顔であふれたものになりますように。
 執筆者プロフィール
獣医師免許取得後、3人の出産・育児をはさみながら、8年間都内の動物病院で勤務。家族の転勤に伴い、各地を転々としています。
現在はアメリカ在住。動物保護シェルターのサージェリー部門にて勉強中です。ママ獣医・転勤族獣医としての在り方を模索中です。
小さいころからウサギが好きで、獣医師になることを決めました。
ペットとの笑顔あふれる生活のために、少しでもオーナーさんの不安が少なくなるよう、病気のとき以外にも何でも相談できる身近な獣医師を目指しています。

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