犬と猫の歴史~祖先は同じだった! 分かれ道は約3,300万年以上前

犬と猫の違いは、すなわち進化の歴史の違いでもあります。実は、犬と猫は同じ「食肉類」という肉食ほ乳類のグループに属し、もともと同じ祖先から進化した動物です。

犬は平原へ、猫は森にとどまる
その祖先は、ミアキス類という、北米やヨーロッパにいた小型肉食動物(ミアキス科、およそ6,200~3,300万年前)の仲間と考えられています。ミアキス類はどちらかといえば猫のような姿で、森に暮らしていました。

ミアキスから犬の系統と猫の系統に分かれると、犬の祖先はだんだん森を去って平原へ行き、猫の祖先は森林にとどまり、それぞれの場所で特有の進化をとげるようになります。

1 :犬は平原のハンター、猫は森林のハンター

平原へ出た犬の祖先は、群れで暮らし、集団で狩りを行うようになりました。平原には隠れる場所が少なく、獲物からも丸見えです。そこで犬の祖先が確立した狩りの方法が「追跡型」。集団で長時間追いかけ回し、獲物を弱らせる方法で仕留めてきました。

一方で、猫の祖先は森林にとどまり、単独で生活をしていました。森林には身を隠す物陰がたくさんあります。この環境を利用し、物陰から獲物に突然とびかかって仕留める「待ち伏せ型」の方法を猫の祖先は確立したのです。

この狩猟スタイルの違いが、犬と猫のさまざまな「違い」をひも解くカギとなります。

2 :犬は持久力、猫は瞬発力

「追跡型」の犬は狩りの間、長時間走り続けました。長いときは数日間にわたって獲物を追うことも。これが、犬の細長い手足と驚異的な持久力を生み出すこととなったのです。現代、ペットとして飼われている犬も、猫に比べてずっとアクティブ。基本的に毎日の散歩が必要です。

一方、「待ち伏せ型」の猫の狩りは一瞬が勝負。一瞬で獲物を仕留める力を生み出すために、猫は体のしなやかさと瞬発性の高い筋肉を発達させました。
しかし、この筋肉は疲れやすく、持久力がありません。猫が犬のような、体力の消耗度が高い運動や散歩を必要としないのはこのためです。むしろ、猫は狩り以外の時間は体力を温存しています。ペットの猫も1日の大半を寝て過ごしますが、その背景にはこのようなルーツもあるのです。

3 :犬は平面、猫は3Dで生活

犬は平原で生活するようになったため、足は走ることに特化し、一方で木に登る能力は失われていきました。

森林にとどまった猫は、木登りや「待ち伏せ型」の狩りによって、ジャンプ能力やバランス能力を大きく発達させました。猫にとって高い場所は大事な生活空間で、猫を飼う際は室内に猫が登れる高い場所をつくり、上下運動させることが大事です。犬はその逆で、高い所から飛び降りてケガをすることも多いので、むしろ高低差には気を付ける必要があります。

4 :犬は口で、猫は前足で獲物を捕まえる

フリスビーを投げたとき、犬は口でくわえて取りますが、猫はまず先に前足で捕まえようとするでしょう。

「待ち伏せ型」の狩りをする猫は、逃れようと暴れる相手をまずは前足でしっかり抱きこんで捕まえなければなりません。この抱きこむ動作に前足のひねりが必要となり、それを可能にしているのが鎖骨です。猫には小さいながらも鎖骨がありますが、犬にはありません。
猫は前足首の柔軟性があるので、物を投げたり、引き出しを開けたりと器用に動かすことができます。

犬は獲物が弱ったところを口で直接噛みついて襲うので、狩りを行う際に前足をあまり必要としません。また、足が走ることに特化したために鎖骨は退化していきました。

5 :行動心理、犬はわかりやすく猫はわかりにくい

群れで生活する犬は、狩りも集団で行います。狩りを行う際には、仲間とのコミュニケーションが欠かせません。
犬は群れのなかで、誰が自分より地位が高く、誰の命令に従うべきかを考え、集団で「社会」ともいえる関係を築きます。犬が人の命令を聞くことができるのは、人間社会に似た社会性があるからです。
その反面、猫は単独生活者です。猫特有の社会はあっても、他者との関わりは狭く、血縁の猫や縄張りで一時的に出会う猫など限られています。

自分自身で判断する猫には、誰かの命令に従うという行動パターンがなく、集団内で相互がさまざまな関わりあい方をする人間とは性質が異なります。このことが、猫が人にとってわかりづらい存在で、「マイペース」「気まぐれ」とされる理由になっています。

しかし、表現が違うだけで猫も犬に劣らず非常に愛情深い動物です。ただ、「人の言うことを聞くこと」を猫自身が必要と思っていないので、しつけをするのは犬より大変かもしれません。

6 :犬は順位づけ、猫は対等

「5」の行動心理と同じ理由から、犬と猫では、人と付き合うスタンスが異なります。飼い犬は人の家族を「自分の群れ」と認識し、リーダーである人に従い、自分を含む家族一人ひとりに順位をつけると言われています。

一方、猫は家族に順位をつけません。そのときそのときのシチュエーションや感情で距離を測ります。子猫の時期から飼育すれば、親子のような密接な関係になることもありますが、基本的に人と自分は対等と考えています。

7 :犬は外向的、猫は内向的

犬は、集団生活のなかで積極的に仲間とコミュニケーションを図り、社交性を身に付けました。外に出かけることを好む犬は、たとえ初めて出会う人や犬、初めての場所でもあまり物怖じすることがありません。犬の飼い主にとって犬とのお出かけは、ペットライフの大きな楽しみにもなりますね。

その反面、猫は単独生活の習性が強いため、子猫のときから外の世界に慣れていなければ人見知りで内弁慶になります。家(縄張り)の外や、初めての場所は苦手です。※個体差があります

8 :犬は臭う、猫はあまり臭わない

犬にとっては自らの体臭も、群れのなかでの重要なコミュニケーションツール。それは、体臭で相手の存在や状態を確かめることができるからです。ただし、放っておくと人にとって不快なほど臭うこともあるため、定期的にシャンプーが必要です。

その一方、「待ち伏せ型」で狩猟する猫は、獲物に気づかれないよう体臭を消す必要がありました。現代の猫も、起きている時間の1/3を「毛づくろい」の時間にあてて、体臭をしっかりと消しています。体も清潔に保たれているので、シャンプーする必要もほぼありません。

ただし、糞尿は例外です。猫の糞尿はかなり臭く、特に発情時のスプレー尿は強烈な臭いを放ちます。

豆知識:スプレー尿の臭いを消す方法
筆者が実際にやってみて一番効果があった方法をご紹介します。
ベストな方法はスプレー尿が付いたものを「丸洗い」することです。ただし、丸洗いできない素材や布製品以外の場合は「薄めたお酢と熱湯をかける」方法がおすすめです。お酢をかけたら一度拭き取って、その上から熱湯をかけてまた拭き取ります。翌日まだ臭うようであれば、同じ手順を繰り返してみてくださいね。
※熱湯やお酢をかけると傷む素材もあるので、素材を確認のうえご使用ください

9 :トイレの場所を決めない犬と決める猫

猫は縄張り内でトイレの場所を決め、糞尿には砂をかける習性があります。これは、一説では獲物に自分の存在を知られないようにするためと言われています。
猫のトイレのしつけが楽なのはこの習性を利用しているためです。飼育時には、猫砂の入った箱(トイレ)を猫が安心する場所に置きましょう。早ければ一回でトイレを覚えてくれます。

一方、犬は、定めた場所でトイレをする習性はないため、犬を迎えたその日からトイレトレーニングをすることが必要です。所定の場所でトイレができたら十分に褒め、一緒に遊んであげましょう。トレーニングを繰り返すことでトイレの場所を覚え、トイレをできるようになります。

10 :飼育費用、犬は猫の約2倍

最後に、犬・猫を家族に迎えるにあたり重要な「飼育費用」についてご紹介します。犬は犬種によってかなりばらつきがありますが、医療費(治療費、予防接種費)やトリミング代、しつけ・トレーニング料など猫よりも費用がかかるとされ、犬には年間およそ34万円、猫には17万円かかるという調査結果もあります。
ペットにかける年間支出調査 犬にかける費用は年間34万円、猫は17万円

【参考資料】アニコム損害保険 ニュースリリース

まとめ

いかがでしたか? 今回、犬と猫の10の違いを知って、「もともと好きだったけどもっと好きになった!」という人も、あるいは「犬(もしくは猫)もいいかも……」ともう一方の魅力に気づいた人もいるかもしれません。

もともと祖先は同じだった犬と猫。進化の過程で生まれた狩猟スタイルなど生態の違いが、現代の犬と猫の違いを生んでいることがわかりました。しかし、犬と猫には科学で解明しきれない不思議がまだまだ隠されています。

私たちがなぜ犬や猫に魅了されるのか。研究が進むたび、愛される理由がどんどん解明されていくのかもしれませんね。
関連する記事
犬と猫は同居可能? 仲よくさせるための飼育のポイントについて

現代の社会人の疲れを癒してくれるかわいいペットたち。なかでも犬と猫は最もポピュラーなペットとして広く愛されています。そんな犬と猫を両方飼いたいという考えをお持ちの方は、きっと少なくないはず。 この...

 執筆者プロフィール
2匹の愛猫と暮らす元博物館学芸員です。専門は古生物学。ペットに関する科学的な知識を分かりやすくお伝えしていきたいと思っています。
保有資格はペットシッター、愛玩動物飼養管理士2級