猫の腎不全①どんな病気?

腎臓の機能が30%以下に低下した状態を「腎不全」と言います。突然、腎臓の機能が低下した場合を「急性腎不全」、徐々に低下していく場合を「慢性腎不全」と言います。

腎臓の主な働きは下記のようなものがあげられます。

・老廃物を尿として体外に排出
・体内の水分と電解質の調整
・血液を造るホルモンと血圧を調節するホルモンの分泌

腎臓の構造は人間も猫も同じです。外側の皮質という部分には「ネフロン」と呼ばれる構造が多数存在しています。
このネフロンは網目状の毛細血管からなる「糸球体」、それを包むようにあるボウマン嚢(のう)からなる「腎小体」、それにつながる1本の「尿細管」でできています。

さまざまな老廃物を含んだ血液が糸球体の毛細血管を流れ、分子量の大きい物以外はろ過されて原尿として尿細管に流れます。
ただ、この原尿には生命の維持に必要な水分、電解質、ブドウ糖なども含まれています。尿細管でさらに再吸収が行われ、本当に不要な老廃物だけが尿として排出されるのです。

腎不全は腎臓のろ過装置がうまく作動しなくなり、体内から老廃物を排出できなくなる状態を言います。
腎臓は2つあるうえに、機能が25%に低下しても劇的な症状は見られません。
さらに機能が10%以下に低下すると体内の老廃物や余分な水分を体外に排出できなくなり、「尿毒症」と呼ばれるさまざまな症状があらわれるようになります。

尿毒症はなんとなく元気がない、毛づやが悪くなるなどの症状から始まり、進行すると食欲不振、嘔吐、アンモニア臭のする口臭などがみられます。さらに症状が悪化すると痙攣などの神経症状が見られ、命に関わる状態になります。

猫は腎不全になりやすい動物と言われていますが、その原因ははっきりとはしていません。一説には砂漠で暮らしていた猫の祖先が関係しているとされています。
猫の先祖は水の少ない環境でも生活できるよう、尿の濃縮機能に優れた肝臓を持っていました。しかし、それゆえに腎臓へ負担がかかりやすい体になったのではないかとも言われています。

猫の腎不全②原因と症状

加齢により腎臓に負担がかることで正常に働くネフロンの数は減少していきます。
特に犬や人間と比べてネフロンの数が少ない猫は(猫は1つの腎臓に約20万、人間は約100万と言われています)慢性腎不全になりやすいと言われています。
また、猫は「AIM」というたんぱく質が機能しないため、尿路結石や腎炎、中毒などで急性の腎不全が起きると、腎臓が受けたダメージを回復することができず、腎不全が慢性化しやすいという報告もあります。

血統的にシャム、メインクーンアビシニアン、バーミーズ、ロシアンブルーが腎不全になりやすいと言われています。
また、「多発性嚢胞腎」という腎臓に多数の液体が溜まった袋状の構造ができ、徐々に腎機能が低下する遺伝性の病気があります。これはペルシャアメリカンショートヘアに多いと言われています。

腎不全のステージ

慢性の腎不全は腎臓の残存機能ごとに4つのステージに分けられます。血液中のクレアチン濃度を指標とします。クレアチニンは体にとって不要なもので、本来は腎臓でろ過されて体外に尿として排出されます。

ステージ1(クレアチニン1.6mg/dl以下 残存腎機能33%)
血液検査上は正常値内で特に臨床症状も見られません。ですが尿比重の低下(おしっこの水分とそれ以外の尿素や塩分などの割合。これが低いと薄いおしっこになります)、腎臓の形状の異常などが見られることもあります。この段階で腎機能が三分の一にまで落ちている可能性があります。

ステージ2(クレアチニン1.6~2.8mg/dl 残存腎機能25%)
この段階でも無症状な場合がありますが、初期症状の「多飲多尿」が見られるようになります。それでも元気や食欲はあるため、なかなか気付きにくいです。

ステージ3(クレアチニン2.9~5.0mg/dl 残存腎機能10%以下)
腎臓の機能がさらに低下し、血液中の老廃物や有害物質を排泄できなくなり、尿毒症の症状が出てきます。主に食欲不振、嘔吐、尿毒素による口内炎や胃炎などです。
また、腎臓は血液の生成に関与しているため、貧血が起きることがあります。

ステージ4(クレアチニン5.0mg/dl以上 残存腎機能5%以下)
痙攣などの神経症状や昏睡などが起き、積極的な治療を行わなければ命に関わる状態です。

猫の腎不全③治療と余命

腎臓の機能は一度失われるともとに戻ることはありません。残念ながら、腎不全は完治することのない病気です。
残った腎臓の機能を長持ちさせて、病気の進行を遅らせる治療が中心となります。療法食や投薬、水分管理を続けることで十分に長生きが可能と言えるでしょう。

食事療法

腎不全の初期~中期では、食事療法が治療の要とも言えます。栄養素であるリン(P)の制限が腎不全にとって重要です。
腎臓病用の療法食は腎臓の負担を減らすために、たんぱく質とリンの量が適度に制限されています。また、ナトリウムも軽く制限されているため、高血圧の予防にもなります。
食事療法で大切なのは、決められた量をきちんと食べることです。

投薬治療

腎不全の初~中期程度であれば、球形吸着炭も効果が期待できます。吸着炭は腸で尿毒症毒素を吸着し、便とともに排泄することで腎機能の低下を抑える働きがあります。
また、ACE阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬で糸球体血圧を下げることで、尿へのたんぱく漏出を抑制し、腎不全の進行を遅らせることができます。
その他に甲状腺機能亢進症などの腎臓機能の悪化因子があればそれらの投薬治療も行うため、薬の種類や費用はケースバイケースです。

脱水の管理

たくさん水分を摂取して尿量を増やせば、血液中にある多くの老廃物を体外に排泄できます。
また、腎臓の機能低下により尿の濃縮ができなくなると、体内の水分をとどめておけず、脱水状態に陥りやすくなってしまいます。
日常生活において、猫が水を飲みやすい環境を整えてあげることが大切です。

それでも脱水が進行する場合や、嘔吐で水分摂取が難しい場合などは輸液が必要となります。
脱水の程度によっては毎日の通院や入院が必要となるため、ストレスを感じやすい猫には、自宅での皮下点滴をすすめることがあります。輸液セットで2000円前後、輸液量や頻度は猫の脱水状態で変わりますので、かかりつけの獣医師とご相談ください。

猫の腎不全④予防法

猫の腎不全、特に慢性の腎不全は飼い主さんが症状に気付くころにはかなり進行してしまっていることが多いです。常に愛猫の飲水量や排泄に気を配ることが、腎不全の早期発見に繋がると思います。

また、腎不全に限ったことではなく、猫は体調の悪さをあまり表に出さない動物です。7歳以降のシニア期を迎えた段階で、血液検査などを含んだ健康診断を受けることをおすすめします。

そして、シニア期を迎えたら今までのフードではなくシニア用のフードに、腎臓の機能が落ちているなら腎臓の負担を減らすフードに移行しましょう。
現在は慢性腎不全のためのサプリメントも多数販売されています。
吸着炭で血液中の老廃物を取り込み便として排泄するものや、カルシウム成分でリンを吸着し体内のリンの過剰を防ぐもの、乳酸菌で腸内細菌の善玉菌を増やし消化管の窒素物の量を整えるものなどさまざまです。
食事とともに摂りやすい液体やパウダータイプのものであれば、猫にとっても負担になりにくく続けやすいと思います。

また、急性腎不全の原因にもなる尿路結石の予防のためにも、猫が日頃から水分を摂りやすい環境にしてあげましょう。

まとめ

慢性の腎不全は気づかないうちに進行していき、完治することのない病気です。
しかし、猫は腎臓を悪くしやすいと分かっていれば、若いうちから生活面での予防もできます。また、腎不全と診断されてからも食事療法や点滴治療により、長生きも可能な病気ということを忘れないでいてください。
 執筆者プロフィール
獣医師 / ペットサロンBEANS
酪農学園大学獣医学科卒業、後に日本獣医中医学院にて中医学を学び獣医中医師の資格を取得。

ペットスペース&アニマルクリックまりも様にて臨床経験を積ませていただきながら経営のノウハウを学ばせていただき、2017年2月、調布市にペットサロンBEANSを開業。

ペットホテルとペットの鍼灸治療を行っています。また、週に2日はまりも様にて代診を行っております。
鍼灸という身体に負担の少ない治療法でペットや飼い主さんの手助けができればと思っています。

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