猫の病気、FIPとは?

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、コロナウイルスの一つである、「猫伝染性腹膜炎ウイルス」を原因とする病気です。猫の体内で一部のコロナウイルスが突然変異し、発症するとも言われています。
感染すると血流に乗って全身に広がり、咳や鼻水などの風邪症状から発熱・下痢、そして神経症状など、さまざまな症状を引き起こし、最終的に死に至ります。

感染した猫は便やくしゃみ・鼻水と一緒にウイルスを排泄し、それらに濃厚接触すると感染します。そのため、多頭飼育している家に来た子猫、あるいはペットショップや元野良猫など、新たに家に迎え入れられたばかりの子猫で発症することが多いです。一般的には5歳以下の猫が発症し、特に1歳未満の子猫での発症が多いです。

また、猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している猫では、かかりやすい傾向にあります。このほか、純血種の猫は、FIPウイルスに感受性が高い(感染しやすい)という報告があります。
ウイルスに感染しても、すぐに発症するわけではありません。本人の免疫力が勝る場合は、ウイルスは体内で静かにしています。

しかし、体に何らかのストレスがかかる状態(体調不良や不妊手術など)になると、ウイルスが活発化し、発症に至ります。発症率は5,000頭のうち1頭といわれています。診断に携わる者としては、頻繁に目にする病気ではないですが、年に何頭かの猫に、FIPが疑われる印象です。

FIPの症状

初期には風邪症状、発熱、食欲不振、体重減少など、ほかの病気と変わらない症状がでます。下痢・嘔吐などの消化器症状が出ることもあります。また、血液検査で黄疸が出ることが多いです。

FIPの特徴には、ウイルスに対する免疫力で症状が異なる点があります。免疫力が比較的低い猫だとウェットタイプに、高い猫だとドライタイプになる傾向にあります。一般的にはウェットタイプを示すことが多いです。

ウェットタイプ

血管炎により腹水・胸水が溜まるのが顕著な症状です。水が溜まることで、呼吸困難や食欲不振などが引き起こされ、全身状態の悪化により死に至ります。

ウェットタイプは急性かつ劇症の症状です。腹水や胸水の貯留は、体に必要な栄養素が血管から漏れ出ている状態のため、体への負担は大きく、病状の悪化は数日単位と急速に進行していくことが多いです。とくに胸水は呼吸困難を伴うため、本人の苦痛も大きいことがあります。

ドライタイプ

ウェットタイプと比べると、何か目立った変化が認められない場合もあるタイプです。何となく元気がない、あるいは健康診断のつもりで血液検査をしたら、黄疸や高蛋白血症などが認められ、FIPが疑われた、ということも。

コロナウイルスは目にも移行するため、ぶどう膜炎など、目の異常だけが認められることもあります。この他、発作や眼振などの神経症状が、ドライタイプでは出やすくなります。

ドライタイプは慢性の症状です。食欲不振下痢などの症状が長引くことが多く、緩やかに体が負けてしまって死に至ることが多いです。とくに、大人の猫なら持ちこたえられる状態でも、FIPは子猫での発症が多いため、体力が足りず、残念ながら早々に死に至ってしまうこともあります。

また発作などの神経症状が出る場合は、心臓に負担がかかって突然亡くなってしまうケースもあります。

FIPは不治の病?

FIPは確定診断のできない病気です。原因である「コロナウイルス」には、FIPの原因となる猫伝染性腹膜炎ウイルスのほかにも、「野外株」というインフルエンザのA型B型のようなさまざまな種類のコロナウイルスが存在しています。そのため、FIPウイルスの特定が難しく、ワクチンによる対抗ができないのです。

FIPの診断方法

FIPの診断には「抗体検査」という血液検査を行います。これは、抗体というウイルスに対する「体の抵抗力」を測る検査です。つまりは体の反応であり、例えば定まった病気を引き起こさない、弱いコロナウイルスに感染した場合も、抗体は作られます。

FIPウイルスは「強力なコロナウイルス」のため、体はたくさんの抵抗力を作ります。この数値の振り幅と、症状や他の血液検査の結果から、FIPの可能性が高い、と推測を立てて治療をしなくてはならない病気なのです。

FIPの治療法とかかる費用

FIPと仮定された場合、治療はステロイドとインターフェロンという抗ウイルス薬の高濃度投与を定期的に行います。このほかに腹水や消化器症状などがある場合は、それらの症状に合わせた治療が行われます。治療費は症状によってさまざまですが、抗ウイルス薬が高価なため治療費は高くなりがちです。

FIPは治るのか

発症した場合、全身に症状が出ていると数カ月で亡くなってしまう猫がほとんどです。腹水や胸水が溜まるなど、激烈な症状が出ている場合は、残念ながら数日で亡くなってしまうことも。

まれに治療が功を奏して、症状が改善してウイルスの抗体価が減る猫もいます。しかしウイルスが完璧に排除されることはなく、完治ではなく「寛解(かんかい)」という表現が使われます。

FIPの予防と注意点

予防法

コロナウイルスに対するワクチンはありません。ウイルスとの接触を避けることが一番の予防になります。まず、愛猫は家の外に出さないようにしましょう。
前述のように、FIPウイルス単独を特定することが難しいため、すでにFIPウイルスに感染しているか否か調べるのも、難しいです。

注意点

もし、新しく迎え入れた猫がFIPに感染していると診断された場合、同居の猫がいる場合は注意が必要です。ウイルスの接触により感染が広がる可能性があります。理想はお互いを隔離することですが、難しい場合は、まず食器やトイレの共有ができないようにしましょう。

ウイルスは唾液やくしゃみなどの体液や便に接触することでうつります。またFIPウイルスは、日常で使用されている消毒剤で感染の力が衰えます。感染した猫がよく使うおもちゃやベッドは、頻繁に消毒してウイルスを残さないようにしましょう。

ちなみに、FIPウイルスは人に感染しません。しかし、人の手や衣服に着いた唾液などから、ほかの猫にウイルスがうつる可能性はあります。感染した愛猫を抱っこしたりお世話したりしたら、よく手を洗うようにしましょう。


最後に、上記で触れたように、愛猫がFIPウイルスに感染した場合でも、本人の免疫力が勝っている状態では発症しません。感染が疑われる場合は、ホテルに預けるなど、環境が急に変わるような強いストレスは、なるべくかけないようにしてあげましょう。

まとめ

FIPは難しい病気です。病気が疑われたときには、すでに愛猫が手の施しようのない場合も、しばしばあります。家族に迎え入れたばかりのタイミングで発症することもあり、飼い主のショックは大きいと思います。亡くなってしまう猫が多い病気ですが、家族の一員として愛情を注ぎ、かわいがってあげましょう。また、同居の猫がいる場合は、扱いに注意が必要なことを覚えておいてください。
 執筆者プロフィール
「今日は猫ちゃんにお注射した? 」と仕事に行くたびに聞く4歳の長男と、寝るときも猫とひよこのぬいぐるみが離せない2歳の次男に毎日振り回されながら、埼玉県三郷市の動物病院でパート勤務をしている獣医師です。
当たり前のことかもしれないけど、飼い主様の話をよく聞いて、一緒に治療を進めることを心がけながら、病気じゃなくても、ペットに関する心配事をぽつっと相談してもらえるような、飼い主様に寄り添える獣医さんを目指して、日々研鑚しています。

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