生理的な犬の咳について

犬の呼吸器の配置や役割はほぼ人間と同じで、外気から吸い込んだ空気を肺に送り、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出します。
体内に取り込んだ酸素は身体のあらゆる箇所の代謝に必要とされます。もしも酸素がなくなれば身体中の機能を失い、すぐに死んでしまいます。

そして人間と同じように、犬も咳をします。
咳は病気の症状でも出ますが、ホコリなどの異物や刺激物、冷たい空気などが、喉、気道、気管に入り込んでしまったときも反射的に起こります。
また、「誤嚥」と言って、食べ物や液体が食道ではなく気道に進入したときにも、異物を対外に出そうと反射に咳が出ます。
本来、気道や気管、肺には空気のみが存在し、空気以外の異物は存在しません。
異物を察知する箇所は「咳受容体」と呼ばれ、喉や気道などに分布しています。
異物が入り込むと炎症が起こり、酸素と二酸化炭素を交換する肺の機能に問題が発生するため、肺を守るための防御反応として咳が起きるのです。

犬の咳で気を付けなければならないのが、犬は解剖学的に胃が人間よりも垂直よりも水平に位置しており、逆流の起きやすい構造をしているということ。
咳の刺激によって嘔吐を引き起こしやすいため、(人間も咳込むと一緒に吐いてしまうことがありますよね)咳の症状を嘔吐と見間違えるケースが比較的多いのです。

病気の可能性がある咳について

長引いているなど明らかに生理的ではない咳は、何らかの病気を抱えている可能性があります。

最も多いのは、細菌やウイルスの感染で、病原体を取り除くために起きる咳です。
いわゆる「風邪」の症状は病原体そのものと、病原体を外に出しやすくするために分泌された粘液(痰)を外に出そうと反射的に起きる咳です。

あまり深刻でない呼吸器の肺より上部の感染に関しては、程度によっては咳を鎮める薬を使わないこともあります。
ただし、体力を消耗しやすい子犬や老犬は注意が必要。咳はエネルギーを消費しやすく、身体が病気と戦う力を損なうことでかえって長引いてしまうのです。
特にペットショップなどから連れて帰ってすぐに起きる「ケネルコフ」と呼ばれる咳は、初診時の処方や対処を間違うと数カ月単位で治癒の時間を要することも。もちろん個体差はありますが、そうならないためにも柔軟に症状を見極めることが大事です。

咳を引き起こす原因はほかにもいろいろあります。
喉や気道には、異物を察知するための「咳受容体」と呼ばれるセンサーのようなものが分布しており、その近くにある臓器を物理的に刺激することで咳がもたらされてしまうこともあります。
例えば、心臓の病気で心臓の一部が大きくなり、その肥大した部分が本来なら刺激しない咳受容体を刺激してしまう……といったケースも。
「心臓病で咳?」と思うかもしれませんが、このように重症化した心臓病の症状でも咳がでることがあるのです。

犬の場合はフィラリアという寄生虫の感染症でも心臓が大きくなるため、重症化すると咳が出ることがあります。
ただし、現在は予防が普及したことや、飼育環境の変化で愛犬の変化に気付きやすくなったため、咳につながるような重篤なフィラリア症はほとんど見なくなりました。

心臓以外では肺も咳受容体の近くにある臓器なので、肺に炎症が起きたり、腫瘍ができたりした場合も咳が出ることがあります。
また、病原体や異物ではなく、本来であれば排除しなくていいものに対して過敏に咳反射が出るのが、喘息などのアレルギーです。
それ以外にも老化による気管の石灰沈着や、首輪の締め付けが原因で気管が平らになった場合でも、咳を誘引してしまうことがあります。

正常な咳・危険な咳の見分け方

犬は水を飲むとき、下を向く姿勢をとります。
激しい運動で息切れしているときに水をがぶ飲みすることもありますが、そのような行動は気管に水を侵入させる原因となります。
また、人間よりも地面に近い位置で生活しているので、地表のホコリや異物を吸い上げやすく、生理的な咳やくしゃみも多いです。
因果関係ははっきりしていませんが、逆くしゃみ症候群と呼ばれる、咳と間違えやすい症候群もあります。

明らかに病的で、診察が必要な犬の咳は、以下の特徴を有しています。
見分けがよくわからない場合は、咳をしている様子を動画に収め、ひどくなる前にかかりつけの先生に相談するといいでしょう。

1.一度咳を始めるとなかなか止まらない。ひどいときは座り込む
⇒アレルギーによる慢性気管支炎や喘息、気管虚脱の可能性があります。

2.ゴボゴボした音が混ざり、痰が絡んでいたり、ときには血が混じったりしている
⇒細菌やウイルスに感染している可能性があります。

3.咳をしているときに舌の色が悪くなることがある
⇒心臓病が原因の咳の可能性、肺炎の咳の可能性があります。

4.寝るのがつらい様子で、半身を起こしている
⇒肺炎、肺腫瘍など命に関わる状態の可能性があります。

5.早朝に咳で目を覚ます
⇒心臓による咳の可能性があります。

犬の咳の対処法・治療法について

家庭でできる咳の改善方法で最も簡単なのは、加湿と空気清浄です。
特に都心部や、中国大陸からの大気汚染物質の影響を受けやすいエリアは、空気中に刺激になりやすい異物が多く含まれていて、アレルギーを引き起こしやすいのです。
家電量販店で購入できる空気清浄機には、加湿性能が備え付けられているものもあります。
室内の湿度をあげることで浮遊する汚染物質を床に落とすことができるので、空気清浄だけでなく適度に湿度の調整を行うようにしましょう。目安としては、湿度が50%を切らないようにするといいですね。

また、ペットとして飼育する犬は野犬ではないので、ある程度の空気調整は必須です。
暑すぎたり寒すぎたりしないよう、空調にも気を付けてください。基本的には部屋は温かく、湿度を高めに保つのがベストです。

長引く咳を止めるためにまず初めにやらなければならないこと、それは診察に行くことです。
原因を突き止めることも大事ですが、咳の診断や、治療の効果が出るまでに時間がかかることも多いので、なるべく早く診察を受けるようにしましょう。このとき、自宅でできるケアも並行して行うといいですね。

ツボ押しなどに興味がある方は、鍼灸を扱う病院を訪ねてみてください。骨の細い小型犬は力加減も難しいので、自己判断で行うのはあまりおすすめできません。

いずれの原因で咳が起きていても、首輪は咳受容体への刺激になります。愛犬の咳が止まらない場合は、ハーネスに切り替えたほうがいいでしょう。

病院で行われる投薬の内容は咳の原因によってさまざまですが、抗生物質だけではよくならない咳には漢方薬を重ねて処方したり、吸入治療を行ったりする場合もあります。
喘息と診断された場合には、自宅で使用できる吸入器の購入を勧められることもあります。

まとめ

長引く咳は犬の体力を消耗させます。愛犬が苦しそうに咳をしているのを見るのは、飼い主さんとしてもいたたまれないですよね。
咳の原因が単純な感染症であっても、状態によっては症状が長引き、飼い主さんの根気が問われることもあります。
咳に限ったことではありませんが、治療の開始が早いほど治癒にかかる時間も短くなります。重症化させないためにも、少しでも「おかしいな」と思ったら、早めに診察受けるようにしましょう。
 執筆者プロフィール
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科中退後、麻布大学獣医学科獣医学部卒業。
都内動物病院勤務医を経て、2007年渋谷区にどうぶつ病院ルルを開業、10年間院長として小動物臨床に携わった。
教科書どおりではなく、病気を構成するあらゆる要因を考慮し、東洋医学などの選択肢も取り入れ、治癒力を高める医療技術は根強いファンが多かった。
民法ニュース出演や、BS番組出演、監修した書籍はアジア6カ国で翻訳されるなどの実績を持つ。
院長退任後は国外資格に挑戦予定。

犬のブリーダーについて

魅力たっぷりの犬をあなたも迎えてみませんか? 

おすすめは、ブリーダーとお客様を直接つなぐマッチングサイトです。国内最大のブリーダーズサイト「みんなのブリーダー」なら、優良ブリーダーから健康的な子犬を迎えることができます。

いつでもどこでも自分のペースで探せるのがインターネットの魅力。「みんなのブリーダー」では写真や動画、地域などさまざまな条件で理想の犬を探せるほか、多数の成約者の口コミが揃っています。気になる方はぜひ参考にしてみてくださいね。

※みんなのブリーダーに移動します