犬が飼い主にキスしてくれるのは愛情表現?

愛犬が口もとをなめて「キス」してくれるとき、多くの飼い主が「愛情表現」として受け止めているのではないでしょうか。顔がよだれまみれになって困ることもありますが、飼い犬の愛を実感できてうれしいですよね。

では、実際のところ、犬が口をなめることにどんな意味があるのでしょう。それには、犬が祖先のオオカミから受け継いだ習性に理由があります。

犬のキスは先祖のオオカミが関係していた!

犬の祖先はオオカミから進化しました。

オオカミの子どもが離乳してから肉を食べられるようになるまでの間、親オオカミは離乳食を与えます。オオカミの離乳食は、いったん食べた肉を半分消化した状態で吐き戻したもの。子オオカミはおなかが空くと、親オオカミの口をなめて「おなか空いたよ」「早くごはんちょうだい」とおねだりします。

上下関係がはっきりしたオオカミの群れで、最下位の子オオカミが食べものの催促をしても許されるのは、まだ獲物が捕れないほど幼い子どもだから。まだ自分で狩りができず群れのルールもわからないため、おとなのオオカミたちに大目に見てもらえるからです。

このおねだりが転じて、口をなめることに「群れのリーダーへ親愛・服従」「怒っている相手をなだめる」「甘える」などの意味が込められるようになったそうです。

おいしそうなにおいがしたんだもん

犬が飼い主にキスするのは、単純に「おいしいそうから」だという説もあります。

犬は嗅覚が優れていて、人間の百万倍以上とも言われています。人間は気づかなくても、食べたもののにおいが口のまわりについていて、それに興味をもってなめている可能性があります。食欲をそそられているだけなら、飼い主としてはちょっと悲しいですね……

犬のキスのもうひとつの意味

なかには猛烈な勢いで飼い主の口をなめ、制止してもなかなか止められない犬がいます。
この場合、「飼い主のことが好きすぎて」というより、強い不安を抱えている場合があります。恐怖や不安の対象から守ってもらおうとして飼い主の口をなめるのです。

初めて家に招いた客に、愛犬が飛びついて口をべろべろなめるときなども注意してください。もともとフレンドリーな犬なら歓迎の意を表しているかもしれませんが、「お願いだからひどいことはしないで!」と必死に訴えている可能性がありますよ。

犬があまりにも口をなめたがる場合、身近で何かにストレスを感じていないか振り返ってみましょう。

「ちょっと迷惑……」犬のキス、拒んだら傷つく?

飼っている犬がかわいくても、キスされるのはちょっと……という人もいるでしょう。犬のキスを拒んだら、犬は傷ついてしまうのでしょうか。

犬にとってキスはコミュニケーションや愛情表現。そのため、いくら嫌でも無理やりやめさせると犬は悲しみます。それどころか、頭ごなしに叱ると「怒らないで!」という意味を込めて、よりいっそうなめようとするかもしれません。

犬のキスを遠慮したい場合は、無視する方法をおすすめします。口のまわりをなめられたら、無言で立ち上がったりその場を去ったりします。犬が落ち着いたら褒めてあげましょう。

これを繰り返せば、犬は「キスを我慢すると褒められる」と覚えてくれます。「おすわり」「待て」「ふせ」などのクールダウンする合図を覚えさせ、犬がなめようとしたらいったん止めるというのも有効です。

さらに、「犬のキス歓迎派」の飼い主だとしても、犬にキスをやめさせたほうがいい重大な理由があります。

犬のキスは危険なキス!? 人畜共通感染症(ズーノーシス)の恐怖

犬と人間が共通してかかる、「人畜共通感染症」をご存知でしょうか。
「人獣共通感染症」「ズーノーシス」などとも呼ばれ、実際は犬だけでなく、犬を含めた脊椎動物と人間の間で感染する病気のことを指します。

病原体はウイルスや細菌、寄生虫なども含みます。代表的な人畜共通感染症に狂犬病やエキノコックスなどがありますが、今回は犬にキスされることで感染しやすい病気を挙げてみます。

レプトスピラ症

細菌の「病原性レプトスピラ」に感染して起こる病気で、感染すると尿から菌を排出します。ネズミが保菌しているので、ネズミの尿が溶け込んでいる可能性がある水たまりや用水路などに、犬を近づけさせないことが大切です。
感染すると発熱や頭痛など、風邪に似た症状が出て、重症化すると肝障害や腎障害、出血などを起こすことも。人間に感染が認められた場合は、医師が保健所に届け出を行わなければならない「4類感染症」に分類されている、とても怖い病気です。

パスツレラ症

75%の犬が口内に「パスツレラ菌」という細菌を保有しています。常在菌なので犬は感染しても症状が出ることはほぼありません。人間に感染した場合は、咳などの呼吸器症状、腫れやかゆみといった皮膚症状が現れ、重症化すると肺炎や骨髄炎、敗血症を起こすこともあります。

カプノサイトファーガカニモルサス症

早口言葉のような名前ですが、細菌の「カプノサイトファーガカニモルサス」は、犬の口の中にいる常在菌です。人に感染すると発熱や嘔吐、倦怠感、頭痛などを引き起こします。悪化した場合は髄膜炎や髄膜炎に進行し、死に至ることもあります。

サルモネラ症

食中毒の印象が強い「サルモネラ菌」ですが、犬の3~21.5%が健康な状態でも保有しているそうです。また、爬虫類が多く保有している菌なので、犬と爬虫類をどちらも飼っている家庭では特に注意が必要です。散歩中などに犬が爬虫類を追いかけたり捕まえたりすることにも気をつけてください。感染すると、嘔吐や発熱、下痢などの症状があります。

アメーバ赤痢

微生物の「赤痢アメーバ」は、犬に寄生してもほぼ無症状で、サルモネラ菌と同様に爬虫類も保有していることが多いです。人に寄生すると下痢や粘血便、下腹部痛などの症状が見られ、悪化すると死亡することも。今でも発展途上国を中心に、世界で毎年4~7万人がアメーバ赤痢で亡くなっていると言われています。
これらの病気は、健康な状態であれば感染したり症状が現れたりすることはほぼありませんが、体力や免疫力が少ない子どもやお年寄り、病中病後の人などは注意してください。

どんなにかわいい愛犬でも、犬は人間に害を成す菌を持っていることがあります。犬に口のまわりをなめさせない、犬を触ったら手を洗うといった、感染を防ぐ習慣をつけましょう。

まとめ

いかがでしたか? かわいい愛犬のキスとはいえ、感染症の心配もあるため、人間にとってはちょっと迷惑な行為。でも犬にとってキスはコミュニケーションや愛情表現の一環です。
拒絶したり、しかりつけるのではなく、「私には必要ないよ」という態度を、根気強く穏やかに示すようにましょう。
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 執筆者プロフィール
『みんなのペットライフ』編集部スタッフが、わんちゃん・ねこちゃんの飼い方、しつけのアドバイスなど、毎日のペットライフに役立つ知識や情報をお届けします。
 監修者プロフィール
獣医師・トリマー・ドッグトレーナー / ペットスペース&アニマルクリニックまりも病院長
18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。
ペットとその家族のサポートをしたい、相談に的確に応えたい、という想いから、トリマーとして働きながら、獣医師、ドッグトレーナーになりました。

現在は東京でペットのためのトータルケアサロンを経営。
毎日足を運べる動物病院をコンセプトに、病気の予防、未病ケアに力を入れ、気になったときにはすぐに相談できるコミュニティースペースを目指し、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護士、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。

プライベートでは一児の母。愛犬はシーズー。
家族がいない犬の一時預かり、春から秋にかけて離乳前の子猫を育てるミルクボランティアをやっています。

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