なぜ猫は帰宅後にスリスリするの?

猫は本来縄張りをもつ動物。自分の縄張りが侵されないよう、縄張り内のものに自分のニオイをつけるマーキングをする習性を持っています。

猫の嗅覚は人間の数万~数十万倍とも言われるほど発達しており、飼い主のニオイも嗅ぎ分けることができます。

帰宅後、猫が飼い主にスリスリするのは、飼い主が外でつけてきた不審な匂いを敏感に察知しているからこそ。自分のニオイを一生懸命つけ直すことで、縄張り(家の中)に侵入してきた不審なニオイも同時に消しているわけです。「もーやだ、変なニオイ。あたしのニオイで上書きしてやる!」と思っているのかもしれません。

ご飯前にもスリスリしてくることがありますが、こちらはニオイづけとともに、甘えとゴキゲンな気持ちをあらわすスキンシップの意味も含まれています。

猫にとってニオイは重要なコミュニケーションツール

猫とニオイの関係をもう少し詳しく見てみましょう。猫はそれぞれ独自のニオイを持っており、猫にとって重要なコミュニケーションツール、情報収集ツールとなっています。

縄張りを主張するマーキング

マーキングとは、自分の縄張りに濃縮した尿をスプレーしたり(尿マーキング)、体から分泌されるフェロモンをこすりつける行動です。つまり、帰宅後の猫のスリスリは行動学的に言えば、猫が飼い主にマーキングしているということなのです。

猫は、縄張り(家の中)が自分のニオイで満たされることで安心できます。我が家の猫たちも、建具や家具の角にたくさんスリスリして自分のニオイをつけています。おかげであちこち黒く変色してしまいましたが、猫が安心できるように、あえてあまり掃除しないことにしています。

親しい猫(人)とのあいさつ

猫にとってお互いのニオイを共有することは、友好関係を維持するために大切なことです。多頭飼いしている方は、猫同士で頭突きをしたり、スリスリしたりする姿をよく見かけることはありませんか? これはマーキングの意味とともに、互いに確認しあって安心する「あいさつ」の意味もあります。

猫が飼い主にスリスリや頭突きをしてきたときは、猫に仲よしと思われている証拠です。友愛の気持ちを示しているので、なるべく猫の好きなようにさせてあげてください。猫のあいさつに応えることで信頼を得ることができます。

猫同士が、お尻のニオイをかぎ合う行動もまた、猫流コミュニケーションのひとつ。ニオイを嗅ぐことで、相手の猫となり(人となり)を確かめています。

縄張りに出入りする動物の情報収集

「オス猫かメス猫なのか、はたまたほかの動物か……?」
猫は縄張りに入ってきた不審者をニオイで判断します。特に、フェロモンのニオイからは詳しい情報を読み取ることができるようで、「強そうなオス猫が入ってきたぞ」、「この猫は興奮しているぞ」などフェロモンをもとに探偵顔負けの分析をしているんですよ。

猫のニオイの元「フェロモン」の種類

猫の主なニオイは、猫の体の分泌腺(臭腺)から分泌されるフェロモンによるものです。分泌腺は猫の体のあちこちにありますが、その用途や感情によって分泌されるフェロモンが異なります。

安心フェロモン‐フェイシャルフェロモン

猫のおでこ、頬、あごなど主に猫の顔の分泌腺から分泌されるフェロモンをフェイシャルフェロモンといいます。ほかに尾の付け根からも分泌されます。

フェイシャルフェロモンは別名「安心フェロモン」とも呼ばれていて、縄張りの主張や親子・飼い主など心許せるものへのニオイづけに使われます。これがスリスリや頭突きで使われるフェロモンです。

フェイシャルフェロモンで空間が満たされていると、猫は安心してくつろぐことができます。

◇猫まめ知識「猫のしっぽにニキビ? スタッドテイルって何?」
猫の尾の付け根がときどき黄色く汚れているのは、このフェロモンが過剰に分泌されて酸化しているからです。分泌腺にばい菌が入るとスタッドテイルといわれる病気になり、ニキビのように炎症を起こしたり、腫れたりすることがあります。分泌が多い子はこまめにお湯でふき取って乾かし、清潔にしてあげてください。

警戒フェロモン

肛門や足の裏から分泌されるフェロモンは、縄張りを主張する役目があり、爪とぎや肛門をこすりつけるなどの行動にあらわれます。人間の冷や汗のように極度に警戒、興奮すると分泌されるため「警戒フェロモン」とも呼ばれます。特に肛門から分泌されるフェロモンは非常に強烈なニオイがします。

特に、尿によるマーキングや肛門のこすりつけは、縄張りが脅威にさらされたと感じると起こるようです。例えば野良猫による家の庭への出入りや、引っ越しなど、環境の変化が引き金になりえます。

もし、尿マーキングや肛門腺のこすりつけで困ったときは、まずは原因を解明し、猫の不安感を解消することが大切です。猫のまわりに、安心フェロモンのついたグッズ(毛布やクッションなど)を増やして、猫が安心できる環境をつくりましょう。(市販の人工フェロモンもあります)

◇我が家のにゃんこ事件簿
ちなみに興奮状態でも警戒フェロモンが出ることがあるようです。我が家で起きた悪夢のようなエピソードをご紹介します。

ある夜、私が寝ている横で、甘えが高じて興奮状態になった猫が枕に肛門腺のフェロモンをつけてしまったのです。当然私は夢の中。知らずに寝返りをうったらクサイのなんのって……。まるで腐った雑巾の悪臭を濃縮したようなニオイです!

幸い枕はスポンジ製だったので、業務用洗剤で二度洗いし、ことなきを得ましたが、「猫の肛門腺フェロモンは興奮しすぎでも出るものなのだな」と実感した事件となりました。

性フェロモン

言わずと知れた、自分の発情を知らせるフェロモンです。尿に含まれていて、スプレーなどの行動でつけられます。
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実は鋭い猫の嗅覚! 第2の鼻でフェロモンをキャッチ?

猫も犬ほどではないものの、優れた嗅覚をもっています。
嗅覚の鋭さは、ニオイをかぐ器官の性能の良さ、そしてニオイを分析する能力の高さによって決まります。

①ニオイをかぐ器官「嗅上皮」
鼻の内側には、ニオイをとらえるための「嗅上皮」と言われる皮膚がありますが、猫はその表面積が人の5倍以上もあります。体の大きさからすれば相対的にとても大きいです。

②ニオイを分析する「嗅球」
ニオイを最初に分析する脳の組織を「嗅球」と言いますが、これも人より大きく(あの小さな頭で!)、含まれる細胞の数も人の1.3倍もあります。

第2の鼻、ヤコブソン器官

猫が靴下のニオイを嗅ぎに行っては口をポカーンと半開きする、おマヌケな顔を見たことはありませんか?
「えっ、そんなにクサイの?」なんていささかショックを受けたり受けなかったり……。

実はこれ、「フレーメン反応」と呼ばれるもので、フェロモンを分析しているときの反応なのです。フェロモン分析を行う嗅覚器官を「ヤコブソン器官」と言い、第2の鼻とも呼ばれています。

猫をはじめとする哺乳類や両生類、ヘビ、トカゲはこの「ヤコブソン器官」が発達しています。(ただし哺乳類の中でも霊長類、コウモリ、水生哺乳類は退化しています)

どうやってフェロモンを分析するの?

猫の「ヤコブソン器官」は鼻の穴を仕切る軟骨下部にあり、上あごの切歯の裏にある穴と管でつながっています。

第1の嗅覚器官とも言える鼻は、息をするたびに自動的にニオイを受け取ることができますが、「ヤコブソン器官」は、筋肉を使って管にニオイを送り出さなければフェロモンを感知できません。

そのため、猫は口を半開きにして舌で管にフェロモンを押し込み、さらに筋肉を動かしてヤコブソン器官に送り込んでいるのです。これが、独特の面白い顔つきになる「フレーメン反応」となります。

フェロモンを嗅いだ猫に「くさっ!」と思われているかどうかは猫のみぞ知る、です。

◇猫まめ知識 「猫のヤコブソン器官は犬よりすごい」
「ヤコブソン器官」に限って言えば、受容体は犬よりも猫のほうが3倍も多いとされています。それは猫が本来夜行性の単独生活者だからかもしれません。

どのような猫が縄張りに侵入したか、どのようなオスがいるのか(強者か、弱者か、病気をもっていないかなど)、そのオスが交尾にふさわしい相手か(近親者ではないか)などをあらゆる情報をニオイから識別する必要があるからだと考えられます。

猫は「ヤコブソン器官」で鼻の機能を補い、フェロモンのニオイから多くの社会的意味のある情報を得ていると考えられます。

最後に

猫のスリスリは、自分の居場所を心地よくするために必要な、猫にとっては意味のある大切な行動だったのですね。帰宅後のスリスリも、飼い主が外で付けてきたニオイを自分のニオイで上書きすることで安心しているのです。
自分のフェロモンのニオイで満たされれば、猫も安心して生活することができます。問題になるほど臭くないのであれば、徹底消臭は控えめにして、ぜひ猫たちの「お部屋メイク」に協力してあげてくださいね。

参考文献 「猫的感覚 動物行動学が教えるネコの心理」ジョン・ブラッドショー 早川書房

「脊椎動物のからだ」ローマー&パーソンズ 法政大学出版局

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 執筆者プロフィール
2匹の愛猫と暮らす元博物館学芸員です。専門は古生物学。ペットに関する科学的な知識を分かりやすくお伝えしていきたいと思っています。
保有資格はペットシッター、愛玩動物飼養管理士2級

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