犬の皮膚病とは?

まず、犬の皮膚病とは、どのような状態のものがあるのでしょう。

・丘疹…直径1cm未満の限局性隆起(多くは紅色を呈す)
・水疱…直径1cm以上の透明な水溶性の内容をもつ皮膚の隆起
・膿疱…水疱内に膿が貯留
・腫瘤(しゅりゅう)…直径3cm以上の限局性隆起
・鱗屑(りんせつ)…角質の異常な蓄積
・落屑(らくせつ)…鱗屑がはがれて脱落する状態
・痂皮(かひ)…浸出液や血液、膿や角質などが凝集し皮膚表面に付着した状態
・脱毛、色素沈着、びらん、潰瘍 など他多数あり


上記などの皮膚病には、かゆみのあるものがあれば、ないものもあります。
同じような病変でも原因が異なる場合があり、原因を探っていくうえで飼い主さんからの情報がとても重要です。
チェックポイントとしては、下記のようなものがあげられます。

・いつから始まり、最初はどんな病変でどこにみられたのか?
・どのように変化し、拡がったか?
・かゆみの有無や程度はどうなのか?


それでは、犬の皮膚病にはどのような種類があるのでしょう。ここではおおまかに7つに分類して、それぞれの特徴をご紹介します。

①細菌性皮膚疾患

細菌性皮膚疾患に属する「膿皮症」は、皮膚に細菌が増殖することで起こる疾患です。
通常かゆみを伴い、症状は紅斑性丘疹、あるいは小型の膿疱、または膿疱が潰れてびらんや色素沈着が起こることもあります。
皮膚バリア機能が低下している犬や、免疫力の低い子犬や老犬に見られやすく、アトピー性皮膚炎、甲状腺機能低下症、脂漏症などさまざまな病気に続発して起こることも多いです。

膿皮症の検査では、皮膚直接押捺検査などを行います。
「深在性膿皮症」といって、真皮や皮下まで感染がおよんでいる重度の皮膚炎の場合は、皮膚生検を行います。
また、基礎疾患により続発して膿皮症が起っている可能性がある場合は、血液検査やアレルギー検査、ホルモン検査など状況に応じた検査が必要です。

膿皮症の治療は内服抗菌薬や抗菌性シャンプーなどを使用し、患部が局所に限局されている場合は外用薬を使用することもあります。かゆみが強いときは、かゆみ止めを使用することもあります。
基礎疾患がある場合は、同時に治療を行います。治療は個々の状態に合ったものを選択する必要があります。

②真菌性皮膚疾患

真菌とはカビのことで、犬ではマラセチア皮膚炎、皮膚糸状菌症などがあります。

マラセチア皮膚炎

表皮に常在する酵母様真菌です。
湿潤や皮脂の多い皮膚環境で増殖しやすく、宿主の免疫機能の変化により病原性を発揮すると考えられています。また、他の皮膚疾患に二次的に生じることも多いです。
強いかゆみを生じる皮膚炎で、高温多湿の季節に悪化しやすいのが特徴です。
皮疹はワックス様の皮脂やフケを伴う紅斑で、耳、口唇、首の内側、下腹部、指の間などに好発し、独特の脂っぽい臭気があります。慢性化すると掻いてしまい、色素沈着や外傷がみられることも。
診断は、皮膚直接押捺検査によってマラセチアの検出をします。他の皮膚疾患を除外するため、他検査が必要なこともあります。
治療は抗真菌剤の投与や抗真菌性シャンプーなどで行われます。

皮膚糸状菌症

糸状菌によって惹起された皮膚疾患です。
皮膚の脱毛、紅斑、水疱、フケなどの皮疹を引き起こします。犬だけでなく猫やウサギなどの愛玩動物や人にも感染するため、人畜共通感染症としても知られています。羅患動物からの接触感染や、土壌などを通して感染します。
若齢や基礎疾患などで免疫機能が低下したわんちゃんにも散見されるため、注意が必要です。
診断は、臨床症状と病変部の糸状菌を確認することです。検査は皮膚掻爬検査、毛検査、ウッド灯検査、真菌培養検査などを行います。
治療法は個々の状態により、患部の毛刈りや洗浄、抗真菌性シャンプーや外用薬、抗真菌剤の内服薬の投与などを行います。

③寄生虫性皮膚疾患

疥癬(ヒゼンダニ)、毛包虫症(ニキビダニ症)、ノミ、シラミ、ツメダ二などの寄生虫による皮膚疾患があげられます。

疥癬(ヒゼンダニ)

ヒゼンダニの寄生によって発症する、寄生性の皮膚疾患です。
症状はさまざまで、感染初期で軽度のものは、紅斑性小丘疹やわずかな脱毛、落屑、かゆみを呈しますが、重症例では角質増殖が顕著で激烈な掻痒を伴います。宿主の体調や免疫状態、他の併発疾患の関与でも症状は変化します。
また、人やすべての動物が羅患する可能性もあり、注意が必要です。
皮膚掻爬検査によって診断しますが、検出率は低いです。
基本的には殺ダニ剤の投与を行いますが、治療法はいくつかあるため個々の状態に合ったものを選択します。また、治療の反応がみられるまで1カ月ほどかかることもあります。

毛包虫症(ニキビダニ症)

犬の毛包内に寄生します。ニキビダニ症の発症は、何らかの免疫失調が関与すると考えられています。
診断は皮膚掻爬検査や毛検査によって行われます。基礎疾患が疑われる場合は、状況に応じた他検査が必要です。
治療は駆虫剤の投与や薬用シャンプーによる洗浄、二次的な細菌感染が認められる場合は抗菌剤を併用することもあります。

ノミアレルギー性皮膚炎

犬の場合、病変部は腰背部、尾部背部、後肢、会陰部、臍部などの下半身に多いですが、全身性に丘疹を認め、疥癬に酷似した症状になることもあります。
かゆみの程度は個体差がありますが、著しいかゆみのため自傷による脱毛、落屑、痂皮などが認められることもあります。
一度ノミアレルギーを発症してしまうと、1匹のノミに吸血されただけでも激しいかゆみを引き起こすと言われています。
治療はノミ駆除、かゆみ止めの投与などがあります。

④免疫性皮膚疾患

食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、自己免疫性疾患(天疱瘡、全身性紅斑性狼瘡ほか)など、免疫が関与した皮膚疾患です。

食物アレルギー

食物抗原に対する免疫学的な副反応として、さまざまな皮膚症状、消化器症状を示す疾患です。原因となる食物抗原は、牛肉、鶏肉、卵、大豆、乳製品、トウモロコシ、小麦など個体によりさまざま。
発症部位は、顔面、耳、背中、肢端などに多く、症状は非季節性の掻痒感がありますが、かゆみの程度は個体によって異なります。また、他の皮膚疾患が二次感染したり、他疾患と類似した症状が現れたりすることもあるので、注意が必要です。
疾患の診断には、アレルギー検査や除去食検査(原因となる食物抗原が含まれていない食事を約2カ月続け、症状の改善があるか確認する検査)で、原因となる食物を特定します。
ただし、食物アレルギーの場合、アレルギー検査では異常が認められないこともあります。このため、検査や治療方針については獣医師とよく相談して決めましょう。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎には、遺伝的素因があると言われています。
また、さまざまな要因(環境中のアレルゲン、皮膚バリア機能低下、アレルゲンに対する異常反応など)が絡みあって発症すると考えられています。
好発犬種は、柴犬、レトリバー、ウエストハイランドホワイトテリア、シーズーフレンチブルドッグなどです。
症状は、顔面、肢端、体幹部腹側などに強いかゆみを伴います。掻いてしまうと、さらにかゆみが増し、出血したり化膿してしまったりすることもあります。
さらに症状が進むと、脱毛、色素沈着、苔癬化(皮膚肥厚、硬化)することもあります。
現段階では、根本的に治すことは難しく、治療は症状の緩和が目的になります。かゆみを抑えるための投薬治療、シャンプー療法、バランスのとれた食事など多方面からアプローチが必要です。
近年、専門病院や大学病院では、減感作療法や新しい治療法もいくつか実施されています。

⑤内分泌性皮膚疾患

内分泌器官に問題がある場合、ホルモン作用の不均衡によって皮膚に異常が発現することがあります。
犬の場合は、クッシング症候群、甲状腺機能低下症、性ホルモン異常による皮膚疾患などです。
左右対症的に病巣が形成され、一般的にはかゆみを伴うことは少ないとされています。

⑥腫瘍および非腫瘍性腫瘤

主に、肥満細胞腫、皮膚型リンパ腫、組織球系腫瘍などがあります。

⑦その他(先天性、色素異常、角質化異常、代謝性、栄養性、心因性、他多数)

肢端舐性皮膚炎(したんしっせいひふえん)

舐めることで生じる、肢端の皮膚炎です。
さまざまな要因が関与しており、感染症、アレルギー、外傷や異物などの皮膚科的要因。骨格などの非皮膚科的身体要因や精神的要因などがあります。

脂漏症(しろうしょう)

皮脂成分のバランス異常によって起こる皮膚疾患です。
皮脂量が多くなり、べたべたした皮膚にフケを伴った状態を「油性脂漏症」。べたつきがなく、乾燥したフケを伴った状態を「乾性脂漏症」と言います。
脂漏症になると、表皮のターンオーバーの変化でフケが多くなり、常在菌のバランスがくずれます。その影響を受けて、マラセチアが増えやすくなり、かゆみや皮膚炎を起こすことが多いです。
左右対称性に全身に症状が見られますが、首や脇や内股、指の間などでの発症が目立ちます。
原因はさまざまな要因が関与しており、遺伝によるもの、甲状腺機能低下症などの代謝異常によるもの、皮膚炎によるもの、環境や食事によるものなどがあげられます。
また、シーズーやアメリカンコッカースパニエル、ウエストハイランドホワイトテリアなどが発症しやすい傾向にあります。
診断の際は、皮膚直接押捺検査でマラセチアの有無や、各種血液検査やホルモン検査で代謝異常がないかを検査します。
治療は原因の除去、薬物療法、薬用シャンプーなど用いたスキンケア療法などです。

外耳炎

犬の耳は鼓膜直前まで表皮で覆われているため、アトピー性皮膚炎や自己免疫性疾患の犬は再発性の外耳炎にかかりやすいです。

犬の皮膚病の検査方法

皮膚病が疑われるときに行われる主な検査を以下でご紹介します。

数分~数時間でできる検査

・皮膚直接押捺検査
患部に直接スライドグラスやセロテープを押し付け、染色し、細菌やマラセチアなどを確認します。

・皮膚掻爬検査
患部をこすり取り、疥癬や毛包虫などを検出します。

・毛検査
毛の構造、毛周期の確認、毛の感染症の評価ができます。糸状菌や毛包虫などを検出できることがあります。

・ウッド灯検査
簡易的に真菌を調べる検査です。

時間を要する検査

・細菌培養
・真菌培養
・各種血液検査(アレルギー検査、ホルモン検査など)
・皮膚生検
・除去食試験

犬の皮膚病の治療法

個々の病状や原因に応じて治療していきます。
薬は、犬種やその子の体調によってつかえないもの、体重により量が異なること、副作用の問題などがあり、とても複雑です。
このため、皮膚に異常があるからといって市販薬や消毒薬は使わず、動物病院で処方されたものを獣医師の指示のもと使用しましょう。

まとめ

皮膚病は数日で治るものもあれば、数週間~数カ月かかるもの、根治が難しく定期的な管理が必要なものまで、さまざまです。このため、治療費もいちがいにいくらとは言えません。
ただ、早い段階で皮膚の異常を見つけられれば、結果的に費用も抑えられるように感じます。
愛犬が皮膚を掻いたり舐めたり気にしていたり、脱毛やフケなど皮膚の異常を感じたら、動物病院でよく見てもらうことをお勧めします。
 執筆者プロフィール
鳥取大学農学部獣医学科卒。千葉県出身。
千葉市内の犬猫動物病院勤務後、結婚&出産を経て、現在東京都内「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」に非常勤として勤務。

幼いころ、動物に接する機会が何度かあり、小学生のときに念願の柴犬を飼ったのが今思えば獣医師になるきっかけだったように思います。
愛犬はその後、老犬となり痴呆が始まり大変でしたが、最後の1年間は勤務していた院長先生やスタッフ皆さんのお陰で穏やかに過ごすことができました。
この経験から、ペットと飼い主さんの気持ちに寄り添い、治療を行うよう常に心がけています。

現在は、夫と子供の3人家族。家事と仕事と育児に邁進中。

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