犬のよだれの原因 ①生理的・精神的なもの

口から溢れ出る唾液のことを「よだれ」と呼びますが、よだれ(成分唾液)が出ていること自体は特に問題はありません。
唾液は口の中にある「唾液腺」と呼ばれるところから、常に分泌されるのが正常な状態です。
犬は体の表面に汗腺がないので、体温調節は主に足裏で汗をかくのと呼吸による蒸散で行います。
そのため、口を開けている時間が人間に比べて長く、自然とよだれが垂れてしまうことが多いのです。

唾液には消化を助ける酵素が含まれており、この酵素は胃から出る消化酵素を誘導する働きがあります。
また、唾液は抗菌作用のある物質を分泌し、歯周病菌の繁殖予防、初期の歯周病を治す作用もあります。
そのほかにも、口腔粘膜や喉を潤し、スムーズな発声も助けてくれます。

唾液の分泌は、脳が指令を出して行います。
食後などリラックスした状態では「副交感神経」と呼ばれる神経が優位になり、水っぽい唾液がたくさん出て消化を助けます。
反対に、興奮した状態では「交感神経」と呼ばれる神経が優位になり、粘性の高い唾液が分泌されます。

犬のよだれに関するお悩みで「ドッグランに行くと愛犬が大量のよだれを出す」と心配される方がいらっしゃるようです。
「固唾を呑む」「生唾を飲み込む」など、唾が多いときは緊張状態にあることを指す慣用句が多いように、過度の緊張のせいというネガティブな意見もあるようですが、必ずしもそうとは限りません。
犬が大好きなドッグランに興奮したり、ドッグランの自然いっぱいの環境でリラックスしているのかもしれません。
唾液(よだれ)は実際に食べ物を食べているときだけでなく、食べ物を想像した場合でも増えるので、もしかするとお腹を空かせているのかもしれません。
必ずしも悪い影響ばかりではないので、普段から愛犬の様子をよく観察し、総合的に判断すればよいと思います。

犬のよだれの原因 ②病気によるもの

よだれ(唾液)の分泌で、病気のサインであるものはいくつかあります。
大きく分類すると、歯周病菌などの口自体の問題、神経の異常、唾液を分泌する場所の異常、消化管の異常によるよだれの4つに分けられます。

1.口腔内の異常によるよだれ

口腔内の異常で多いのが「歯周病」です。病的に歯周病菌が増えた状態のことを言います。
唾液には歯周病菌を殺す成分があるため、細菌が繁殖すると増殖を防ごうと唾液の分泌量が増えます。
歯周病の場合、細菌の代謝産物によって独特のぬめりがでたり、悪臭を放つ唾液に変わったりするで、口臭で異常に気付くことができます。
重度の歯周病になると、「一体なぜこの小さい口からこれほど……」と驚くほど強烈な悪臭を放つこともあります。
特に歯の根元に繁殖する細菌は、表面の歯石を削ったところではキレイに掻き出せません。
人間の口腔ケア同様、ひどくなる前に動物病院で歯石除去・歯の根元をキレイにする処置を受けて、重症化させない必要があります。
そのほか、歯周病以外にも栄養不良やおやつの食べ過ぎなどによる栄養失調が原因で、口腔粘膜の炎症やただれが起きた場合でも唾液が増えます。

2.脳神経疾患によるよだれ

代表的な脳神経の異常によるよだれは、てんかんの前兆です。
脳炎や脳腫瘍でも、唾液を分泌する指令がうまくできずによだれが多くなることも。
また、一部の感染症でも、脳に病原体が侵入し神経症状を起こします。
それが原因で口や喉が麻痺し、唾液をうまく飲み込むことができずよだれが増えることもあります。

脳神経疾患によるよだれの増加の際には、

・左右の口角の位置が違う
・口角がだらっと下がっている
・眼が揺れてる
・顔面が左右対称に動かない
・呼びかけへの反応が薄くなる

などの症状を併発することがありますので、注意深く観察してください。

明らかに様子がおかしいよだれの垂らし方をしていたら、動画に撮ってかかりつけの獣医師に診察に行くといいでしょう。

3.唾液腺の異常によるよだれ

よだれを生産する場所は「唾液腺」と呼ばれるいくつかの外分泌腺です。この部分に炎症が起きたり、異常が起きたりしてよだれの生産量が増えることがあります。

4.消化管の異常によるよだれ

胃酸過多でもよだれは増えます。胃酸過多は過度の空腹や乗り物酔いのときなどに起きます。

危険なよだれの見極め方

前述の通り、犬は健康な状態でよだれが多い場合が大半で「よだれ=何かの病気」となる場合はそこまで多くはありません。
もちろん、病気の一症状である場合もありますが、犬の場合「特に治療がいらないよだれ」と「病的なよだれ」で明らかな差が乏しく、よだれと一緒に他の症状を見つけることで、病気の一症状であると判断していくことが多いです。

よだれの量は脳が指令を出して調節しているので、何か変だなと思っても、診察のタイミングで獣医師に症状を見せられないこともあります。
よだれが気になる場合は、動画を撮る習慣をつけておくといいでしょう。

よだれとともに以下の症状が見られる場合は、脳神経に異常があることが疑われます。

・口角の位置が左右で違う
・目の動きがおかしい、揺れている
・左右の瞳孔の大きさが違う、開きっぱなしである
・口角が下がっている
・顔面が左右対称ではない
・よだれの後、発作が起きる
・震えている
・四肢のバランスが取れない

また、病気によっては下記のようなよだれが出るケースもあります。

・歯周病が原因のよだれ
独特な粘りと生臭い悪臭を放ち、歯茎が炎症でもろくなっている場合は歯の根元からの出血があります。色は茶色っぽいです。
この粘りは、唾液そのものではなく細菌の代謝産物が原因のぬめりで、台所の生ゴミ置き場がぬめる原理と同じです。

・胃酸過多が原因のよだれ
白っぽい泡のようなよだれを大量に出し、場合によってはその後「胃酸」を吐きます。

ほとんどの場合、よだれそのものよりも悪臭が気になったり、よだれによって口腔周囲が着色したりすることで気付く場合が多いため、「よだれから病気を見つける」というのは難しいかもしれません。
しかし、愛犬が上記のようなよだれを出しているときは、一度獣医師に相談してみるといいでしょう。
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犬のよだれの対処法・予防法

よだれは口から溢れ出る唾液のことを指します。
解剖学的によだれがでていることが普通という犬種もいるので、基本的によだれが出ることに対して神経質になる必要はありません。

唾液による口周りの毛の着色を気にされる方もいらっしゃいますが、明らかな異常がなければさほど気にしなくてもいいでしょう。
ただし、唾液に悪臭があったり、目の周囲にも着色(涙やけ)が見られたりする場合は、おやつやフードに含まれる成分が原因の可能性もあるので、食生活の見直しをしてもいいかもしれません。

よだれやけと涙やけは同時に起こることが多いのですが、相関関係について明確な調査は存在しません。
過去の経験上、フードを専用ものに変えることで、劇的によだれやけ・涙やけを改善することが多いです。また、サプリメントが効果的なこともあります。
病的なよだれに関しては、獣医師による診察及び治療が必要になりますので、かかりつけの獣医師にご相談ください。

まとめ

犬のよだれ(唾液)自体は、異常のサインではありません。量も個体差がありますので、多いからといって一概に悪いこととは言えません。
しかし、明らかに愛犬の体調がいつもと異なる場合や、唾液から悪臭がする、明らかな着色を伴う場合には、病気のサインである可能性もあります。
いつもと違うよだれが続く場合は、動物病院に相談してみてください。
 執筆者プロフィール
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科中退後、麻布大学獣医学科獣医学部卒業。
都内動物病院勤務医を経て、2007年渋谷区にどうぶつ病院ルルを開業、10年間院長として小動物臨床に携わった。
教科書どおりではなく、病気を構成するあらゆる要因を考慮し、東洋医学などの選択肢も取り入れ、治癒力を高める医療技術は根強いファンが多かった。
民法ニュース出演や、BS番組出演、監修した書籍はアジア6カ国で翻訳されるなどの実績を持つ。
院長退任後は国外資格に挑戦予定。

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