安楽死とは

犬のモノクロ写真
安楽死とは、獣医師が麻酔剤などを投与し、苦しみや痛みを感じさせずにペットの命を終わらせることです。くれぐれも間違えないでほしいのは保健所で行われている「殺処分」とはまったく別物だということです。

安楽死を検討する理由

  • 治る見込みのない病気やケガを患っている
  • これ以上の回復が見込めない
  • ペットの苦しみが大きい
  • ペットのQOLの低下が著しい

などがあげられます。とくにQOLの低下は獣医師ではなく飼い主さんが判断することも多く、悩む人が多いようです。

QOLとは

Quality of Life」の頭文字をとった言葉で、簡単言うと「生活の質」です。動物のQOLは動物福祉の理念である5つの自由をもとに判断されます。

《5つの自由》
1.飢えと渇きからの自由
  • いつでもきれいな水が飲めているのか
  • 適切で十分な食事が与えられているか

2.不快からの自由
  • 適切な環境で飼育されているか
  • 清潔を保たれているか
  • 雨風をしのげているか

3.苦痛、障害、病気からの自由
  • 病気にならないように健康管理・予防をしているか
  • 痛みや病気の兆候が出ているか
  • 病気やケガをしている場合、適切な医療を受けているか

4.恐怖、抑圧からの自由
  • 多大な恐怖や精神的苦痛を感じていないか
  • ストレスの原因究明、対処されているか

5.正常な行動を表現する自由
  • 動物が暮らすのに十分な広さが確保されているか
  • 習性に応じて、群れで生活または単独で飼育されているか
 など

これらの要素がどれだけ満たされているのかどうかで、動物のQOLが保たれているのか判断することができます。

安楽死に対する獣医師の意見

医師に抱っこされる猫
いつか安楽死の決断をしなければいけない日が来るかもしれない、そんなふうに思っていてもなかなか自分から獣医師に聞くのは勇気がいりますよね。

そこで、安楽死の手順や費用、安楽死に対する獣医師の考えなどを聞いてみました。

安楽死の手順

まずは安楽死の手順についてお伺いしました。
病院によって多少の違いはあるものの下記の流れが一般的のようです。
  1. 来院
  2. お会計
  3. 同意書の記入
  4. 処置
  5. 帰宅

飼い主さんの心情を考慮し、先にお会計を済ませる場合がほとんどで、なかには「当日か後日かを選んでもらっている」という回答もありました。

安楽死の費用

手順に大きな違いはなかったものの、費用面では多少の開きが見られました。
回答は以下の通りです。
  • 1万~1万5,000円 後処理(遺体のお清め)3,000~5,000円
  • 10キロ未満…1万5,000円、10キロ以上…2万円
  • 2万~3万円(動物の大きさや使用する薬剤の量で多少の変動あり)
  • 3万~4万円

ペットの体重などで変動することもありますが、最低でも1万円ほどかかるようです。

安楽死を依頼されることはある?

飼い主さんの悩みの種となる「安楽死の依頼」。「残酷だと思われないだろうか」など葛藤があるかと思いますが、今回、アンケートの回答を寄せた獣医師においては、全員が飼い主さん側から安楽死を依頼されたことがあると回答。

最終的に飼い主さんの依頼を受けたかどうかについては、話し合いをして依頼を受けたケース、薬などで改善の余地があると提案し、治療を続けることになったケースなどさまざまでした。

悩んでいる方は思い切って獣医師に相談してみることをおすすめします。

安楽死について率直にどう思うか

安楽死について、獣医師に率直にどう思うか聞いてみました。

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▼獣医師Aさんの意見 (30代女性、勤続年数10年)▼
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動物の幸せとは何か、を考える中で存在するもの。
だめ、よい、といった評価は人によって、また動物の状態によって変わるもので、「安楽死」という行為自体に善悪を判定することはできないと思っています。
今の日本では、愛玩動物の安楽死について明確なガイドラインはありません(実験動物についてのガイドラインはあります)。
選択を迫られたときの飼い主さんの苦痛や、その後のペットロスケアのため、また動物の命の尊厳を社会的に形作っていくために、私たち獣医師が先導して道しるべを整えていく必要があると思っています。

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▼獣医師Bさんの意見(30代男性、勤続年数13年目)▼
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快方に向かうための一時的なQOLの低下であればいいが、出口が見えない苦しみは自分の立場であれば(安楽死)を決断してほしいと思うこともあるため、必要な選択肢だと思う。

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▼獣医師Cさんの意見(40代男性、勤続年数14年目)▼
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さまざまな選択肢の一つとして必要なことだと思っています。

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▼獣医師Dさんの意見(20代女性、勤続年数6年目)▼
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あまり積極的にやりたくはないのが本音です。何よりオーナー様の悲しみを間近で見ることになるため。ただ必要な医療行為で、オーナー様と悩んで決めたことですので医療従事者としての立場で最後まで見届けています。


と、みなさん共通しているのは「安楽死は場合によっては必要とされる医療行為」だと思っている点でしょう。しかし獣医師としては「できれば選択したくないのが本音」かと思います。

獣医師から飼い主さんへのメッセージ

最後に、安楽死を選択した、または安楽死を決断しようとしている飼い主さんにメッセージをいただきました。
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▼獣医師Aさんより▼
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動物を家族として愛されているからこそ、辛く苦しい想いをし、悩まれることと思います。

不安や迷いはすべて出し、しっかり納得したうえで決められることをおすすめします。
迷いが残っているようなら、本当にほかに方法が無いかどうか、一緒に考えましょう。
かかりつけ病院でゆっくり相談することが難しいのであれば、ほかの病院でセカンドオピニオンを受けることもひとつの選択肢です。
柔軟に動物病院を利用し、頼っていただきたいです。
その結果、どうしても選択しなければならなくなったときには、最期まで安心させてあげてください。
最期までお側で、抱きしめたり声をかけてあげてください
鳴くことができずとも、動物は飼い主さんからのサインを受け取ろうとしたり、返そうとすることがあります。
表情、仕草、尻尾や耳の動き方など、体の一つ一つから出るサインをしっかり見て、最期まで会話をしてあげてください。

できることをし尽くしてあげることができた見送ってあげることができた、という気持ちが、その後の気持ちの整理を大きく変えてくれるはずです。

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▼獣医師Bさんより▼
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安楽死は動物たちにとって必要な選択肢の一つだとは思います。ただ、ペットさんたちは人間と違い自らの意思表示ができないため、一緒に苦楽を共にしてきた飼い主様に選んでいただくという形にはなります。
飼い主様がペットさんの立場(気持ち)になって耐えられないと思えば選択肢として上がると思います。もちろん、人間側の勝手で安楽死は選択されるべきではないと思います。
しかし、飼い主様のペットさんを思う悲しみ(病気が治らない、いつまで現在の状況が続くかわからない、見ているのがかわいそうなど)が持続する状況であればペットさんの為に飼い主様にしかできない判断だと思います。
ただし、安楽死を選択していただくのであれば、ペットさんの最期の瞬間を看取ってあげていただきたいです

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▼獣医師Cさんより▼
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私が、今まで診てきた動物たちに共通していることは、動物はただひたすらに飼い主様と一緒に過ごすことを望んでいるということです。
話をすることができなくても、心が繋がっている飼い主様ならきっとその気持ちが分かると思います。
どんな局面にもああすればよかったとか、こうすればよかったとかさまざまな気持ちが巡ってくるはずです。正しいことって何なんだろうと私も考えます。
ですが、私は飼い主様が悩んだ末に出された結論が、正しいものなのだといつも思っています。誰もが目を背けたくなることではありますが、それを考える時間が大切です。

以前に私が経験したエピソードなのですが、小さいときから長年診察をさせていただいていた動物の安楽死処置を行うことになりました。獣医師として毅然とした態度で挑まなければならないのですが、さまざまな思いが込み上げてきて処置をしながら涙が止まらなくなってしまったことがあります。本来であれば恥ずべきことなのですが、後でその飼い主様から「先生の涙に救われた」とお話をいただきました。安楽死処置を行う獣医師も一人の人間です。安楽死について不安や悩みがある方は、ぜひ一度獣医師とお話をしていただくといいのではないでしょうか。辛いことを乗り越えたときに、楽しかったときのたくさんの思い出を笑顔で話すことができることを私は願っています。

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▼獣医師Dさんより▼
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安楽死は動物の病状によっては誰しもが考えうるのではないでしょうか。安楽死=殺すではないし、自身が楽になるためでもありません。数ある動物を救済する手段の一つと考えて欲しいと思います。

みなさん、(ここでいう「みなさん」は飼い主さんはもちろん、その子に関わる全ての人のことです)の願うところは、その動物が苦しくなく、痛くない生活を送ることであり、よってこれより先の苦痛や痛みから解放する手段として安楽死を選択することは、動物のために最後に人間がしてあげられることのひとつと思っています。

病状の重い動物を抱えて看護しながら日常生活を送ることの心理的、時間的負担は大きいです。看護していくうえでネガティブに考えることもあるかと思いますが、安楽死はネガティブな思考で行う医療行為であってはならないと思っています。ですから一度ならず何回でも家族や動物病院に相談して欲しいと思います。

飼い主さんが自身を責めることなく、後悔することなく、動物にとって最良の選択をしてあげることができたと思ってもらえるように、数ある選択肢の中からひとつずつ相談して決めていきたいと思っています。医師に聞きづらければ、看護師にこっそり聞いてもいいと思います。病院の方針なども分かるかもしれません。人と相談してみて分かる自分の本当の気持ちなどもあるかと思います。

そしてもし時間が許すのであれば動物が元気なうちから安楽死に限らず死にまつわること、例えばご葬儀の仕方、場所についてあらかじめ調べたり相談しておくのもひとつです。きっとその場にならなければ分からないこともあると思いますがそれでも構いません。
動物との最期の過ごし方、ケア、気持ちの持って行き場など分からないことや不安なことも動物病院に聞いて下さい。動物と人間が最期の時まで共に暮らせるようサポートするのが動物病院の役割と使命です。願わくは可愛い動物たちの最期が大好きな人のそばで迎えられますように



以上、センシティブな内容でありながら、真摯に率直にご意見を寄せてくださった4名の獣医師のメッセージをご紹介いたしました。
とくに最後のメッセージには動物への愛情と安楽死を見届けた経験があるからこその言葉、想いが綴られており、ぐっとこみあげてくるものがありますね。

辛い決断をしたことで、最期の姿を見たくない、辛すぎて見ていられないと思う方もいるかもしれませんが、苦楽を共にしてきた愛するペットのためにも、最期までそばにいてあげてほしいと思います。

ペットロスとグリーフケア

悩む女性
ペットを失った悲しみから、うつ状態になってしまったり、感情が不安定になったりしてしまうことを「ペットロス」と言います。
そのような感情や身体的な変化を「グリーフ」と言い、悲しみから立ち直るためのケアを「グリーフケア」と呼んでいます。
次にグリーフの感じ方、立ち直っていく過程、ペットの死との向き合い方について見ていきましょう。

グリーフの感じ方

グリーフに対しては主に「精神的反応」「身体的反応」「行動の変化」の3つの反応があります。

《精神的反応》
  • 何も感じなくなる(感情の麻痺)
  • 後悔して自分を責める(自責感)
  • 自分には何もできないとむなしくなる(無力感)
  • 自分が大きな罪を犯したような気持ちになる(罪悪感)
 など

《身体的反応》
  • 食欲不振
  • 不眠などの睡眠障害
  • 動悸
  • めまい
 など

《行動の変化》
  • 落ち着きがなくなる
  • ひきこもる
  • ぼんやりする
 など

これらの反応は日常のふとしたときに現れると言われています。ペットの死の直後だけでなく、年数が経ってから生じることも多く、グリーフはとても根が深い問題です。

ペットの死との向き合い方

グリーフケアで大切なのは、感情を押し殺そうとしないことです。ペットが亡くなった場合はとくに、周りに悲しみの深さを理解されないことが多く、感情を押し殺してしまいがちです。
考えないようにしようと思えば思うほど、意識してしまい辛くなってしまうもの。仕事がある人は思い切ってお休みを取って、じっくり悲しみに向き合いましょう。

また、一人で抱え込まずに誰かに話すことも有効です。安楽死の場合は周りに話すのが辛い場合もあります。そんなときは思い切ってカウンセリングなどを受けてみるものいいでしょう。グリーフケアを専門にしているカウンセラーもいます。

残されたペット用品

もう使われることのないペット用品。どうしたらいいのか迷いますよね。
片づけるペースは人それぞれ。気持ちの整理がついてから片づけを始めても遅くはありません。

片づけを進めていくうちに迷うのは余ってしまったフード類やペットシーツ、猫砂など消耗品の処分。捨てるのはもったいないし、かといって譲る相手もいないという場合は、保護団体や愛護センターなどに寄付をしてみてはいかがでしょうか。

開封されていないフードでしたら、引き取ってもらえる場合が多いです。とくに療法食は高価な物が多いため、喜ばれるようです。ペットシーツや猫砂などトイレ用品は常に不足しているという団体や施設も少なくありません。

寄付をすることで、飼い主が見つかるのを待つ動物たちに快適な環境を提供する手助けができます。愛するペットに注いでいた愛情を保護されている動物たちにも少し向けてみませんか

寄付する前に必ず一度、保護団体や愛護センターに問い合わせてみましょう。

まとめ

羽がついた猫
今回、安楽死という重いテーマについて、獣医師の意見や向き合い方についてご紹介しました。記事を読んで、これまで持っていた安楽死へのイメージは変わったでしょうか。簡単に結論を出せる問題ではないですし、考えるだけで辛くなってしまうかもしれません。しかし、いつか訪れるペットの死、愛するペットのために難しい選択を迫られるときがやってくるかもしれません。ぜひ安楽死について家族で一度、話し合ってみることをおすすめします。
 執筆者プロフィール
『みんなのペットライフ』編集部スタッフが、わんちゃん・ねこちゃんの飼い方、しつけのアドバイスなど、毎日のペットライフに役立つ知識や情報をお届けします。