日本で狂犬病はすでに撲滅された病気でしょ?

日本国内で最後に狂犬病の感染が報告されてから、今年で60年がたちます(2017年現在)。日本で暮らしていると狂犬病の感染は「ない」のが当然で、わざわざ愛犬に予防接種を受けさせることを、疑問に感じる飼い主もいるようです。

60年にわたって狂犬病感染の報告がない地域というのは、世界的に見ればまれなことです。2013年の段階で狂犬病が発生していないのは、日本のほかに11の国と地域のみ。貿易相手国のほとんどで狂犬病は発生していて、いまだに世界では年間に5万5000人が狂犬病感染で亡くなっています。

それにもかかわらず、厚生労働省の報告によると、ここ数年の狂犬病の予防注射の接種率は全国平均で70%程度。地域によっては50%を割り込むところもあります。犬を市区町村に登録しない飼い主も増えていて、実態を把握することが難しくなってきています。

狂犬病予防接種を義務づける狂犬病予防法が制定されたのは1950年。当時の接種率は90%を超えていました。
それまでも予防接種は行われていましたが、記録されているだけで1949年に狂犬病を発症した犬は614頭、狂犬病で死亡した人は76名です。

狂犬病の予防接種をしないとどうなる?

現在、イギリスやアイスランド、フィンランドなど、島国や山脈で隔てられた半島などの一部が、狂犬病が発生していない清浄地域とされています。しかし、日本と同じく島国で50年以上狂犬病が発生しなかった台湾では、2013年に野生のイタチアナグマの感染が確認されました
1997年にはインドネシアのフロレス島で、外部から上陸したたった2頭の犬から島全体に狂犬病が広がった過去があります。正確な狂犬病患者数や発症した犬の数はわかっていませんが、対策として感染の有無にかかわらず46万6000頭の犬が撲殺されました。

たとえば、オーストラリアでは狂犬病予防接種を禁止していますが、その代わり家畜以外の動物を国外から持ち込むことが禁止です。イギリスでは狂犬病予防注射は任意で、その代わり検疫を厳しくすることで対策しています。
いずれの国も狂犬病が発生した場合は感染した犬はもちろん、感染が疑われる犬もすべて捕獲・隔離のうえ殺処分と定められています。
日本でいえば、数年前に口蹄疫や鳥インフルエンザの感染のため、「感染疑い」の家畜が大量に殺処分されたことを思い出せばわかりやすいでしょう。

今後日本で狂犬病が発生したら、どのような対応が取られるでしょうか。

そもそも狂犬病ってどんな病気なの?

なんとなく怖い病気のイメージはありますが、具体的に狂犬病をご存知でしょうか。
狂犬病は人畜共通感染症(ズーノーシス)のひとつで、人間を含めすべてのほ乳類が感染する病気です。唾液にウイルスが含まれるので、狂犬病ウイルスに感染した動物に噛まれたり、傷口や粘膜をなめられたりすることで感染します。ちなみに、人が感染した症例の99%は飼い犬に噛まれたことによるそうです。

人間が感染した場合の潜伏期間は1~3カ月、犬は3~8週間と言われています。体内に侵入したウイルスが中枢神経に到達するまでの時間で変化し、1年以上発症しなかった例もあるようです。今のところ、発症前に感染を診断する方法はありません

発症すると頭痛や倦怠感、食欲不振、嘔吐といった風邪に似た症状から始まり、急性期には精神錯乱、興奮、攻撃性、けいれん、嚥下障害などを起こします。犬の場合はむやみに噛みつくといった症状も。液体を飲もうとしたり、冷たい風にあたったりしてもけいれんを起こして痛み、それゆえ狂犬病は「恐水症」「恐風症」と呼ばれることがあります。

進行するとまひや高熱、意識障害、不整脈、呼吸不全などを起こして昏睡や心肺停止に陥り、発症から3日~3週間で死に至ります

発症した場合の狂犬病の致死率は、ほぼ100%。「鳥インフルエンザ」の致死率は約60%、西アフリカ地域で流行した「エボラ出血熱」でさえ、致死率は約80%です。発症した狂犬病の治療法は確立されておらず、発症後に回復した例は世界でも数例しかありません。

狂犬病ワクチンの副作用は大丈夫なの?

日本国内での感染が60年間ないことで、狂犬病については予防注射の副作用のほうを心配する声があるようです。しかし、狂犬病の予防接種を受けさせることは飼い主の義務なので、正当な理由なしに注射しなければ、20万円以下の罰金を科せられる可能性があります。

副作用には食欲不振や嘔吐などがあり、まれにアレルギー反応が出ることがあるそうです。ただし、報告されているのは全体の1%にも満たない数。アレルギー反応からアナフィラキシー症状を起こしたとしても、適切に対処すれば死亡するようなことは防げるでしょう。

一般的にアレルギー反応は30分以内に起こることが多く、遅くとも24時間以内には見られるとされています。狂犬病の予防接種のあとは、30分はその場で様子を見て、何かあればすぐに獣医師に相談してください。犬はなるべく安静にさせ、飼い主は接種から24時間は犬をよく観察しましょう。
犬の年齢や持病によっては、狂犬病の予防接種を免除されることがありますが、その場合も自己判断ではなく獣医師の判断が必要です。

まとめ

狂犬病ウイルスは、石鹸で洗い流せば死滅するほど感染力の弱いウイルスで、ワクチン接種で予防が可能です。しかし発症すれば成す術はなく、人間も犬もほぼ100%が死亡する病気。2014年に70年ぶりで国内感染が報告された「デング熱」の死亡率は、重症化した場合で20%程度、発症しただけなら死亡率は1%以下です。狂犬病の恐ろしさがわかりますね。

ほ乳類すべてに感染するウイルスなだけに、ひとたび侵入を許せば野生動物などを介して流行の危険性があります。現在の日本で狂犬病が発生していないのは、これまで60年にわたって飼い主たちが愛犬に予防接種を受けさせてきたからにほかなりません。

日本では飼い犬を登録することと狂犬病のワクチンを注射することが法で定められています。さらに、日本の健康な生活を守るため、犬の飼い主の皆さんに課された義務なのです。

<参考>
厚生労働省 狂犬病 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
厚生労働省 アナフィラキシー http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1h02.pdf
厚労省検疫所 感染症についての情報 http://www.forth.go.jp/useful/infectious/name.html
農林水産省副作用報告 http://www.maff.go.jp/nval/iyakutou/fukusayo/jyohou/3264.html
狂犬病予防接種はなぜ必要か http://www.vet.kagoshima-u.ac.jp/kadai/V-PUB/okamaoto/vetpub/Dr_Okamoto/Rabies/Rabies.html